【一次遅れ系】モーターのPID制御でオーバーシュートする原因

モーターを一次遅れ系としてPI/PID制御する際に、目標値通りの挙動を完全には実現できない原因を本やウェブサイトで調べてみたので、それらの情報をもとに自分なりにまとめてみます。

モーター回転数の制御

モーターの特性は、終端速度(回転数)と時定数という値を用いて表現することができます。終端速度とは最終的に収束する回転数のことであり、時定数は終端速度までの挙動を、立ち上がりにかかる時間で表現した特性値です。

  • 終端速度:収束する回転数
  • 時定数:立ち上がりにかかる時間

このようなモーターの特性を、制御によって目標通りに変化させることが今回のテーマになります。

モーターを一次遅れ系として制御モデルを設計し、PI/PID制御を行うと以下のような応答波形になります。

モーターの応答波形

理論値と実際の回転数のズレ

応答のグラフをよく見ると、目標値と計測値(実際の回転数)がズレています。モーターのPI/PID制御ではこのような応答がよく見られます。具体的にどうズレているかというと、下図で印をつけたように、時刻ゼロ付近での立ち上がり回転数の遅れと、理論値を通り越して上回ってしまうオーバーシュートが確認できます。

モーターのオーバーシュート

根本的な原因

根本的な原因はズバリ、「モーターが本来持つ電気的時定数を無視し、機械的時定数のみを考慮した一次遅れ系を当てはめて、制御モデルを設計しているから」です。

どういうことなのか、以下で詳しく説明していきます。

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モーターが持つ立ち上がりの遅れにおける機械的要因と電気的要因

内田[1]によると、制御の方法とは関係なく、モーターそのものの性質で、ある回転数で回るように指示を与えてから、指示された回転数に達するまでには、ある程度の時間がかかります。その原因には、モーターが持つ、以下のような機械的な要因と電気的な要因があります。

機械的な原因

機械的な遅れの主な原因は、ローターの重さであり、慣性の法則により目標に達するまでの時間は遅くなります。

電気的な原因

電気的な遅れの原因は、コイルの持つインダクタンスであり、モーターを回そうと電流を流しても、インダクタンスが電流の増加を妨げるので、モーターが回るために十分必要な電流が流れて回転トルクが発生するまでに、しばらく時間がかかることになります。このように、入力に対して応答がゼロである時間のことを無駄時間と呼びます。


厳密にはモーターは一次遅れ系ではない

機械的時定数と電気的時定数が、それぞれ応答波形にどのような影響を与えているのか説明していきます。

見城[2]によると、モーターが持つ機械的時定数と電気的時定数は、二次応答波形の中で、それぞれ下図のように遅れとして表れます。そして、この電気的時定数が無視できるときの伝達関数は一次遅れ系となります[3]。

これらのことから、モーター系を一次遅れ系として制御するということは、電気的時定数を無視し、二次応答に一次遅れ系をなんとか当てはめることであるとわかります。しかし、実際にモーターを回してみると電気的時定数による無駄時間が発生し、目標値と実際の回転数に差が生じます。つまり、そもそも、一次遅れ系としての制御モデルの設計に問題があったのではないかと考えられます。

モーターの立ち上がりの遅れ

オーバーシュートの原因

最後に、オーバーシュートの原因に注目して説明していきます。

回転数が理論値に達したときにそれを超えてしまうオーバーシュート、それは上記で述べた、無駄時間での理論値と計測値との偏差の増大と、PI/PID制御の積分I成分との関係に由来すると考察できます。

積分成分は、偏差の時間積分に比例して入力値を変化させる動作をします[4]。よって、無駄時間での目標値と計測値との偏差の積算により、積分成分が増大し、回転数が目標値に達したころには制御量が過大になるからオーバーシュートしてしまうのです[5]。ゆえに、無駄時間が大きいほどオーバーシュートが起きやすくなります[6]。

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まとめ

モーターは、電気的時定数と機械的時定数を持っており、制御とは関係なく、立ち上がり(終端速度に達するまで)に時間がかかる。

  • 電気的時定数:回り始めるまでの遅れ(無駄時間)
  • 機械的時定数:回り始めてから終端速度に達するまでの遅れ

   ↓

制御を行うには制御モデルを設計する必要がある

   ↓

電気的時定数を無視することで、モーター系を一次遅れ系に当てはめることができる

   ↓

無駄時間で理論値と計測値の偏差が増大する

   ↓

無駄時間での偏差の積算によって積分成分が増大する

   ↓

理論値に達するころには制御量が過多になり、オーバーシュートする


参考

  1. 内田隆裕:なるほどナットク!モーターがわかる本,オーム社,(2013),p.134.
  2. 見城尚志:使いこなすDCモータ技術,日刊工業新聞社,(2008),pp.150-151.
  3. 見城尚志:同上,p.154.
  4. 佐藤和也,平元和彦,平田研二:はじめての制御工学,講談社,(2014).
  5. https://www.as-1.co.jp/academy/15/15-4.html,温度制御の種類と特長,アズワン株式会社.
  6. http://www.rkcinst.co.jp/ondo/ondo-j2.htm,温度制御対象の特性,理化工業株式会社.

さいごに

モータを一次遅れ系としてPI/PID制御したときの理論値と計測値の関係に関して文献調査をもとにまとめてみました。少しでも参考になれば幸いです。

以上です。

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